

業火の記憶は浄化の記録となった
(作家/堀 治喜)
その写真を個展会場で目にした私は、原爆ドームが悲惨な記憶の廃墟から、
希望のシンボルへと昇華した神秘的な瞬間に立ち会ったような興奮を禁じ得なかった。
背景に霞む原爆ドームを前に、異国のカップルが抱擁し唇を重ねている写真……。
だれもが息をのんだはずだ、カメラがとらえたその〝不謹慎〟な構図に。
そんなとまどいをあっけらかんとぬぐい去ってしまった写真のチカラに。
原爆ドームという聖地を前にして、かつてこれほど〝不謹慎〟な写真を撮ったものがいただろうか。
こんなピースフルな魂が出現したことがあっただろうか。
ずっとずっと、この神聖な場所では〝不謹慎〟はゆるされなかった。
だから〝不謹慎〟という観念の呪縛から、だれもが逃れられないできた。
祈り、ねがい、抗議…。あらゆる表現をこころみてきただれもが、
しらずしらずに〝謹慎〟という桎梏(しっこく)に縛られつづけてきたのだ。
その呪縛からやすやすとぬけ出てしまったのが、あの一枚の写真だった。
悲惨を客観視するための時間。
鎮魂が成就した空間。
それが交点をむすんだ時空に神の手がのびて、おもわぬ奇蹟があらわれたのだった。
その瞬間に、宮角さんは立ち会うことがゆるされたのだ。
ヒバクの記憶が刻印されたDNAによって、そして、あの夏と同じ暑いドームの前に身をおいて
シャッターを押しつづけた日々のはてに…。
いまあらためて、この写真をながめてみる。
悲惨のシンボルは霞んだまま背景に定着され、その前にひと型の未来がまばゆいばかりに輝いている。
ふたりの頭上に注がれた陽光の、なんと祝福にあふれていることか。
目をこらしていると、このふたりが創世神話の男神と女神に化身してゆくのがみえるようだ。
そう、きっとわわれはこの写真に希望をたくして、あたらしい未来を創っていくことになるのだろう…。

「GROUND ZERO 希望の神話」発刊にあたって
(カメラマン/宮角孝雄)
このたび、平和をテーマにした僕の作業を写真集として刊行していただけることになり、ありがたくおもっています。
原爆ドームの前で「祈り」をテーマに意識的に写真を撮りはじめて10年。
フィールドはヒロシマからナガサキ、そしてニューヨークへと広がりました。いつまで、どこまでの作業になるのか見当もつきませんが、これはライフワークとでもいえるもので、じぶんが生きているかぎり、未来に希望をつなぐことができるかぎり、僕はシャッターを押しつづけようと思っています。
その途上のひとつの成果として、今回写真集を提供できることになったのは、被写体となってくれた方々はもちろん、撮影にご支援いただいたみなさまの「祈り」のたまものなのでしょう。
ここにみなさまに感謝するとともに、あらためてのご協力をお願いいたします。

宮角孝雄直筆サイン入り写真集のご購入はこちらから

- 判型
- A4 版、176 ページ
- 定価
- 3,000 円
- 発行
- ヒロシマ平和製作所
- 出版
- 文工舎
- ISBN-10:4990176693
- ISBN-13:978-4990176693
※ご連絡いただきましたお客様情報は、当方で適正に管理し、第三者へ開示する事はありません。また、写真集送付の目的以外では使用いたしません。


JOE PASS
'96年「ジョー・パス」(ダブリュネット)1987年、ソロギタリストのジョー・パスと出会い、以来彼のプライベートな時間に密着し、約5000カットを撮影した中から、83点を収録。
ジョー・パスを撮った初の写真集。


about JOE PASS
ヴァーチュオーゾ:称号をもつギタリスト。巨匠、音楽の名演家。アルペジオやクロマティックをもちいたビ・バップ的なアプローチは、教科書と賞される。その範疇での超絶テクニックで、多くの後進ギタリストから尊敬の念を集めた。どんなに崇められても決しておごることなく、 自らを"ギターを弾く芸人"と称していた。晩年は後進の指導にも熱心であり、世界各国で音楽セミナーを開催した。そんな彼のジャズ・ギター方法論は、今では伝統となり、継承されている。
1994年死去、享年65歳


JOE PASS & Takao Miyakaku
宮角孝雄は、1987年、Joe Passと出会い、1994年に彼が亡くなるまで、彼のプライベートに密着し、約5000カットもの貴重な姿を撮影しています。ファインダー越しに写る彼の穏やかな表情は、宮角孝雄との親交の深さを物語っています。宮角孝雄の作品のいくつかは、彼のCDジャケットにも採用されています。